広島・胴上げで重傷 中3逮捕事件 市教委、指導主事派遣せず
産経新聞 2012年8月11日(土)7時55分配信
■「いじめの把握難しい」
広島市安佐南区の市立中学校で、胴上げで同級生に膝蹴りし重傷を負わせたとして、3年の男子生徒(15)が傷害容疑で逮捕された事件で、学校は昨年にも被害者への暴力があったのを確認しながら、市教委に報告せず、市教委も逮捕まで学校に指導主事を派遣していなかった。学校や市教委が「いじめ」問題としてとらえきれていなかった様子が垣間見える。
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市教委によると、逮捕された生徒は昨年5月、「声をかけたのに無視した」と被害者の生徒を殴った。さらに今年2月にも、別の生徒とともに被害者の生徒のこめかみに両側から拳を押しつけたうえ、殴ったことなどが判明している。
しかし、昨年5月のケースでは学校は双方の生徒から事情を聴き殴った生徒に謝罪させ、保護者に連絡。だが、「いじめではない」と判断し、市教委には報告しなかった。
2月のケースは双方の保護者が立ち会って謝罪が行われ、暴力行為として件数だけを市教委に報告していた。市教委は「少なくても2月のケースは詳しい報告を行うべきだった」と指摘している。
一方、市教委は事件発生から3日後の6月25日、学校側から事件や過去の経緯について報告を受けたが、指導主事を派遣せず、その後計10回、学校側からの報告を受け指導するにとどめていた。
また、生徒の逮捕後、いったんは「過去のケースは肩を押すなどしたもので、いじめではない」との判断を発表。約1時間後には「いじめがあった」と訂正する混乱ぶりで、「内部での情報の共有ができていなかった」と釈明した。
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広島市内の小・中学校、高校で23年度に確認された「いじめ」は、計217件(前年度比16件減)。実際には、多くの事案が把握されていないといわれる。市教委の開英治・生徒指導課長は「いじめは、放課後の体育館裏やトイレなどで、人目につかず行われるのが大半で、把握が難しい」と学校現場の対策の難しさを指摘した。被害者も「自分が悪い」などと、1人で悩むケースが多いという。
今回の事件で被害者の生徒は、市内各校で実施されている教育相談アンケートなどで、いじめを受けているという項目にチェックを入れていなかった。
また、学校の調査では今回事件の目撃証言はなく、県警が要請した再調査によって、初めて複数の目撃証言が出てきたという。
市教委は「下を向いていたり、元気がなかったりする子供に教師が積極的に声をかけ、保護者と連携をとって改善していく必要がある。子供たちのコミュニケーションの促進も図りたい」としている。